小学生の世界観なんてものは

今週のお題「本屋さん」
南地区に住んでいるからいつも行く本屋さんは西地区にある黒い外観の本屋さんだった。時折、みんなの気分が違うと目的は一緒でも北西にある白い外観の本屋さんまで足を伸ばした。
各自、自転車に乗りだいたいはノリユキの家に集まることが当たり前になっていて、そこから出発する。ノリユキ、マコト、アツシの3人はスポーツ少年団のサッカーを下校時刻になるとやっている面子だ。僕はその時すでにバスケットボールに夢中になっていた。だから、彼らがサッカーに熱を入れている時間帯に隣のバスケットコートでひとりシュートやドリブルを…自分でわかる範囲のバスケを空が暗くなるまでやっていた。
その日、北西の本屋さんに行った理由がなんだったかなんて今ではもう思い出せない。けど、そこで帰りに起きたよくわからない絡まれ方はずっと今でも記憶にある。それぐらい印象強かった。
当時、自転車の型、造りから名称が勝手に決まっていた。いまでもママチャリはそうだろうが、その他にティーチャリとカマチャリ。このふたつのタイプも存在した。ティーはそのままだ。ハンドルがアルファベットのT型をしているから、そう呼ぶ。カマチャリはハンドルが乗る、持ち手がカマキリの諸手のように伸びているからカマチャリ。
これにママチャリを入れての三種がその時代の自転車事情だろう。たいがいはそのどれかに乗って適当に出掛けていた。
南地区から裏道、農道を進み、国道を渡って北西の地区に入る。そうすると直ぐに白い外観の本屋はある。いつもどおりに入店し本を眺める。もう時代的に立ち読みが不可。お店側がコミック本、単行本を立ち読みさせないようなサービス。それらに透明のビニールをラッピングしている状態で各本棚に並んでいた。雑誌や、月間誌はなんとか読める、めくれるが小学生にはコミック、単行本がお宝だった。
シャコタンブギや湘南爆走族の単行本がお兄ちゃん世代で通り過ぎたように、僕らの時代には特攻の拓やカメレオン、スラムダンクが始まりをみせていた。
ノリユキの買い物が目的で訪れた白い外観の本屋さん。
僕はこの時…既に、視力が落ち始めていた。
自分ではその認識はなかったが検査上では1.0を計測出来ていなかった筈だ。
両目ともに。
そんな視力で見る風景や、人は当たり前にボヤけていただろう。
自分ではそうするつもりがなくとも、目は細め、目つきが悪くなっていただろう。
端から観るのと、自分が思う表情はおおかた違っていることが多々ある。
用事が済むと白い外観の本屋さんを出て、各々が自分の自転車に跨り南地区へ戻る道を走り、漕ぎ出した。
数分後、マコトが言った。
「なんか、2人…ついて来る。追いかけて来てる。追われてる…?」
確かに僕の悪い視力でも目を細めれば後方、少し離れたところに中学生らしき体格の坊主頭の2人が自転車で後を追いかけてきている様子だった。
この頃はまだ市内の中学生は坊主頭にしなければいけない校則があったので、坊主頭は中学生だという判断ができた。加えて中学生は中学校指定の自転車に乗っており、後輪のフェンダー部分に各地域の中学校が発行したナンバープレートを付けていたので分かり易かった。
察するに西地区の中学生2人だ。場所的に西地区の近辺にある白い外観の本屋だったからこそ、縄張りではないがそんな流れだ。
ある程度自転車で走り、進んだが後方のついてきている2人は変わらずに存在した。
シビレを切らしたアツシが自転車を停めて、後ろに向きを変えて付いて来る坊主頭の2人に話しかけに行った。
僕たちも自転車を一旦停めて、アツシを待った。
数分後、アツシが戻って来た。
アツシが離れた2人はそのまま自転車を停めてコチラを見ている。
アツシが2人の主張を聞いてきた。
「なんか、赤い自転車のヤツが”ガン”つけて来ただろう。だから気に入らないからよ…」と主張があったようだ。
…
…
赤い自転車に乗っていたのは僕だった。
他のノリユキ、アツシ、マコトは黒、茶色、銀色の自転車だった。
僕はその時、赤いティーチャリに乗っていた。
思い返せば、目が悪いから遠く見る時に自然と目を細め、眉間にシワが寄っていたことを振り返れる。いつなんどきも。白い外観の本屋さんの店内でも。意識的にそうしたわけではなくて目が、焦点があっていないから、見えないからそんな表情を繰り返ししていた。
事の発端は、僕の目を細め遠くを見た事で西地区の中学生らしき2人に対して”ガン”をつけたケンカを売られた…というような解釈から始まり…今に至ったのだろう。
僕はなんだかわからないが、とてもショックを受けた。
意味もわからない状況を自分が作り上げた。
解消できない気持ちになったことを強く覚えている。
その状況の収束はアツシがとってくれたんだと記憶している。
そこからまた、みんな自分の自転車のペダルを漕いで南地区まで帰った。
帰り道、黒いような、灰色のような渦を巻いた映像が僕のお腹のあたりと頭の中でずっと張り付いていた。
心が晴れない様な出来事だった。
もうその白い外観の本屋さんはない。
