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ケイト・ブランシェットが生み出す世界観|映画【TAR】

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オープニング黒い背景に絶対的なサイズで構成された書体と色彩。既にその時点で引き込まれた。黒い黒い背景、ブラックスクリーンに小さめの字で紹介されていく何か。映像を直ぐに流さずに気を持たせられながら少しずつ進行していく本編。ケイトブランシェットが演じた役は指揮者であり、成功者であり、妻子もいる。金銭的にも仕事的にも既に権力を持ちえた役だ。そしてその立場は指揮者。憧れられるようなアイコンとして君臨していた。この作品は最後まで観ると奇異にも古い古くからあった名作を現代の技術を駆使して綺麗に映像化されたように映った。観ても見てもなかなかストーリーが進んでいない様に感じる前半はなんと表現すればよいか。背景が薄暗いまま継続していくシーンの繰り返しだからかいっこうに時間軸、観ている側の時間軸が早まらない。

 

芸術家特有の内容かはさておき、教え子たちの一人にターゲットを絞り込み、偶然にそうなっただけだろうがその生徒を否定してしまう。その行為はターが昔から変わらずしてきたことであるのだろうがその時ばかりは違ったようで後に大きな問題となる。

 

この映画【TAR】の紹介記事を読んだときに半ば混乱したのはフィクションでありケイトブランシェットが架空の指揮者を演じているというストーリーだ。「リディア・ター」という人間が存在し、ケイトブランシェットがそれを表現したのではなく、フィクションの「ター」を演じている。少し混乱する。監督や脚本家、演出家がいて成立することは理解しているつもりだがこの作品はケイトブランシェットの物ような気がした。

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中盤、ターの妻がある出来事をきっかけに憤慨しターへ「なぜ相談しなかったのか?」「夫婦だろう?」とターへ詰め寄るがターはあしらう。そもそも相談するつもりがないことをあっけらかんと当然のように伝える。それもキャラの性格の片鱗だろうが見ている私はやはり妻とはそうゆうものか…とも考える。テーマ、話題としてはお互いに関連性もなく理解の可能性が低かろうがその出来事を共有するのが夫婦なのだろうか。その点はなんとも見解は語れないが意味はわかるつもりだ。

 

ターの立場上、弱気を遠ざけるのもお気に入りを自分の側へ置く事もたやすいように映る為にこの物語の犯人像が一切見えてこないのも圧倒された理由のひとつだ。サスペンス、ミステリー作品のポイントはそれが後半に向かえば、前半でもある場合が存在するが臭わせることが大概はある。映画【TAR】にはなかったとも言えるし、”ぐるみ”かとも考えさせられる点が多すぎて難解だ。結局は才能ある人間に手を差し伸べられなかった側、相手にされなかった心持から起こした行動が肥大していきいつのまにか対大勢に成ってしまったが故にターはおかしくなっていってしまうのか。

 

正直、オルガの出現と行動、ターへの無邪気な愛想はサスペンス的に捉えれば非常に大きな点として写っていたにも関わらず綺麗さっぱりと登場しなくなる。勿論それはターに妻、子がありオーケストラプラスα著名人であることにも作用されるのかもしれない。

 

後半、突然に展開が早く成りこれは楽曲をながれるかのごとく進み激しく乱降下していくさまを強く魅せた。例えるなら”スコア”にこだわったターの性分を楽曲を使って表現するかのように写す。

 

ターの精神状態が良くなくなり混乱し、事件を起こしてしまうがそこに立ち会っていたオーケストラの一人がターの退場を目視しながら自分の楽譜へ鉛筆を使い十字架を書いた様に映ったのは犯人ということのサインだったのか。ただ単にターへ贈った心配をする心情が書かせた十字架か。うまい演出だった。彼も古くからのターとの関係者であることに違いが無いために犯人であろうが、犯人でなかろうが彼なりの想いがターには向けられることはなんの遜色もない事実だ。

 

結果は付いて来なくて当然な終わりを迎える物語。「リディア・ターの人生」を映し出しているから継続される可能性がある終わりにしたのかもしれない。この現代にも過去にも強く存在しそうな人格を表現するのにケイトブランシェットはあまりにハマり過ぎている。相変わらず目の切れ、写り方が好ましい。

 

視聴している中でターが仕事仲間とワインを片手にお互いの意見を伝えあうような、井戸端会議をしているだけのようなシーンがある。そこで少しだけ思ってしまったことは洋画作品で感じる言葉よりも先に表情や体現が優先し演じていることで強い印象を受ける俳優たちとの比較で邦画、日本の俳優さん達から受ける印象は身体よりも表情よりも言葉、セリフが先に先に優先され演じられているように感じてしまった。だからどうだということはないが前者に子供の頃から憧れを持っている様な感覚を覚えた。

 

 

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