今週のお題「習慣にしたいこと・していること」
それを見て僕は少し疑問に思ったけど
見て見ぬふりをした。
その日はいつもより仕事が早く終わった。いつもより1本早い電車に乗れた。
その日は中島が住む祐天寺の駅で降りることになった。
電車から降りる扉へ向かう前に会社から一緒に歩いてきた先輩の横安さんに会釈だけしてホームに降りた。
改札を抜けると少し遠目に見えるが右手にマックがあるのがわかった。
この真っすぐ伸びている道を歩いて行くと駒沢通りに出る。
中島と僕は特に重要な話をするわけでもなく、当たり前に歩き始めて中島の家に向かった。途中コンビニにより夜ごはんにする物を適当に買い込んでまた駒沢通りのある方へ歩いた。
初めて訪れた祐天寺は夜だけど都会を感じた。
僕が住む板橋本町の雰囲気とは建物の質が違って見えた。
後になってみれば冷たい印象がしたことも記憶にある。
中島が住む建物の前に着いた。
「女性専用で、オートロックが付いてるの！」
聞いてもいないが中島は僕に教えてくれた。
オートロックは会社のビルに入るときぐらいしかお目見えしたことがない。
だから少しそれに驚いたというか、高級感を覚えた。
中島は僕に凄いでしょうとでも伝えたかったのか。
繰り返し聞くのは止めておいた。
女性専用というルールみたいなものの方が僕は反応した。
入って良かったんだろうか。
女性専用なのに…
4階だったのかな…
その部屋が何階に位置したか定かでなくなってしまった。
エレベーターを降りて、中島の部屋の前に着いた。
中島がバッグから部屋の鍵を取り出して、鍵を開け2人で部屋に入った。
部屋の鍵を付けたキーケースはピンク色だった。
確かブランドの品だったと思う。
中島の部屋に入ると2人とも適当に荷物を置いて、上着を脱いだ。
僕は一目散にキッチンのシンクを借りる事を中島に告げた。
自分の家だろうが、人様の家だろうが家に帰ってきたら先ずは…
手を洗い、うがいをする。
子供の頃から手、次にうがいと流れが決まっていた。
しつけだったんだろうか？
あまり深く考えたことはないけど、未だにその順番だ。
逆になることは意識しない限り起こらない。
自分の家ではないからこそ先に手を洗い、うがいをさせて貰った。
外部の者という意識が強かったから。
バレない様に意識的に急いで済ませた。
自分が終わったから、中島に向かって
『ごめん。終わった。次どーぞ…』
と言った。
特に反応はなかった。
少し時間は経過した。
テーブルに置いてあるのは帰り道に寄ったコンビニで買ったお弁当だ。
中島の住む部屋はワンルームなのでキッチンのシンクからお弁当が置かれたテーブルまでの距離はさほどない。3歩あればいいだろう。
中島は既にテーブルの脇に座り、テレビを付け番組を選んでいた。
中島は手は洗わないようだ。
中島はうがいもしないようだ。
僕は『そういうものなんだな。』
心で思った。
敢えて口に出すことはしなかった。
自分の中で当たり前な習慣は、目の前にいる人も習慣であることはないんだ。
彼女の習慣には帰宅したら手を洗う。うがいする。
これはないようだ。
習慣ではないらしい。
カルチャーショックだったのはこの後だ。
何事もなかったように僕はテーブル脇の赤いソファへ座った。
中島は反対側の床、カーペットが敷かれた場所へ座っていた。
この時、暑かったのか中島は上着を脱いでいた。
既にインナーも脱いでいた。
夏ではなかったけど、夏前くらいの季節ではあった。
僕はTシャツでいてもいいぐらいの気候だった。
中島は上半身は下着姿に成っていた。
僕はリアクションに困った。
一応聞いてみた…
『いつもそうなの？』
中島はテレビの方を向いているが、弁当をたべながら答えてくれた。
「いつもそうだよ。だって、この後脱ぐじゃん。」
ルーティンのようだ。
中島の習慣。
僕にあって、中島にないもの。
中島の習慣と僕の習慣。
