前に進むための場所

過去の掘り起こしを未来に繋げる

プレゼントはネックレス。

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就職祝いだったのか…朝礼の場では反対側の顔も見える位置に正面で向き合って立っている。僕はその中島という年齢は同じ20歳の子と付き合い出していたと思っている。だけど今、会社の朝礼に正面に立っている中島の首には知らないネックレスが纏っている。イタリアの有名なデザイナーのネックレスらしい。少しだけネックレスについて年上の先輩、仙田さんとの会話が耳に聞こえてきてしまった。中島と僕は同期入社で他の同期達が四大卒ということもあり年齢が違うので雰囲気的にあわず自然と中島と僕が20歳同志仲が良くなっていった。ある時の会社帰り中島が、突然に僕が一人暮らしをするアパートに寄って行くと言い出した。僕は中島に好意は抱いていたし、気づかれない振りを自分ではしていたが初めての東京生活で彼女もおらずに寂しく気持ちに蓋をしていた。自分では認識しないように。中島が僕の住む埼京線十条駅から歩いて直ぐの部屋へ入りくつろぐ。特別なことはしないが会社の出来事をただただ談笑し、流し見するかのようにTVを横目で観ながら時間は過ぎた。その時、僕は100円ショップキャン★ドのインスタントパスタにハマっていた。袋を開けると麺とソースの袋が別になっていてフライパンで直ぐに調理できるタイプ108円だ。独り暮らしが初めてな上、自炊などしたこともないのだからフライパン、ガスコンロをいじろうとするが下手なことはそれに慣れている中島には直ぐに見抜かれ「貸して!!」と火にかけたフライパンを横取りされインスタントのペペロンチーノを手慣れた手つきで仕上げてくれた。いつも自分が作る物とは比較にならない出来栄えで美味しくて驚いた。その晩、中島は泊って行った。その辺りから中島は千葉の柏にある自分の住まいに真っすぐには帰らず僕の住むアパート十条に寄ることが増えて行った。

 

朝礼で目にしている中島の首に纏われた銀色のネックレスは僕の心に強く響き、重く深い物をかぶせてきた。生まれて初めて動悸のような物を感じた。辛かった。眩暈ではないだろうがしんどかった。呼吸は正常だった。ただどう振舞っていいかわからなくなった。嫌な気持ちになった。苦しかった。運悪く僕の会社の女性スタッフの制服は首元がざっくりと開いている。インナーを着たところで首元はあらわになる。ネックレスがとても映える作りになっている。際立つ中島の首に見える銀色のネックレス。目のやりばに困った僕は下を向くしかなかった。顔を上にあげてしまうと中島のネックレスに視線がいってしまい黒い気持ちになる。また再び内面を感じたことのない感情におおいかぶせられる。嫌な気持ちになる。

 

会社が終わり僕の感情とは裏腹にあまりに自然な流れで中島が僕の十条のアパートへ来た。僕は触れたいが触れたくないネックレスを話題にはしないようにするのに、中島がネックレスに手を掛け、ネックレスを少し軽く引っ張りネックレスを首の側で張りつめさせながら自慢してきた。僕は自然と嫌な気持ちになった。辛かった。そのネックレスは中島が千葉県の柏で同棲している彼からの就職祝いだそうだ。僕は『そうなんだ。』としか言葉は用意出来なかった。そこへ中島の携帯電話が鳴った。緑色の通話するボタンを押し声はいつも通りに「あっ。…あっちゃん…」と少し漏れる声は男性の声色で相手はあっちゃんというらしい。特に僕に気を遣うわけでもなく僕のベッドの上で適当に横たわりながらあっちゃんと談笑している中島。僕は少し離れた場所からそれを眺めている。中島とあっちゃんの会話は正直丸聞こえだが、あまり耳に入って来ない。正直何の会話をしているかも定かではない。後であっちゃんについての情報を中島は淡々と説明してくれた。美容師のスタイリストで車はフォードのエクスプローラーを乗っているらしい。彼は婚約者がいたそうだが若くして亡くなってしまい、その後に勤める美容室に客として来た中島を気に入り、中島もあっちゃんを見初め同棲と成ったらしい。中島はふいに口にする。「あっちゃんは私がいないと駄目なんだ。もうあの人はいないから。」僕にはよくわからない話だった。理解してあげたほうがいいのかすらもわからなかった。リアクションさえよくわからない時間が過ぎた。そんな状況でさえ僕の視線は中島の首元にあり、銀色のネックレスをとにかく見つめ続けた。既に中島の表情はわからなくなるぐらいに中島とは目を合わせずに、ネックレスと僕は見つめ合っていた。僕のベッドで中島が寝静まった後も僕は中島の首に纏われた銀色のネックレスと目を合わせ見つめ合い続けた。何時間経過しただろう。十条の僕の住むアパートの窓は規格が変わっていてとても大きかった。晴れの日は太陽がすごく照る。夜は暗いのに月明りがたくさん差し込んでしまい青く見える。僕の部屋も、ベッドもなんとなく青く見える。僕はネックレスと会話は出来ないが見つめ合っている。もう数時間で会社に行くために起きなければいけない時間なのに。ネックレスと深夜を共にした。

 

朝が来て僕は中島を起こさない様に顔を洗い、お湯を沸かし、トーストを焼いた。インスタントのカップスープも用意してみた。僕と中島の2人分の朝食の準備が整ったので中島をそっと起こすことにした。中島は寝起きがいい方ですんなり起きテーブルに用意された朝食に驚いていた。『されたことがない。』と第一声。僕は特にリアクションもせずにネックレスに目を向けていた。

 

その後、中島はあっちゃんと別れ東京の祐天寺に一人暮らしを始めた。『目黒区民になれた。』ととても喜んでいた。僕は祐天寺の中島のアパートにはたまに遊びに行った。中島は男性に困ったことがないとたまに僕に伝えてくることがある。僕は伺ってもいないのに。中島は自分を確かめるように僕に繰り返し男性に困ったことがないと伝えてくる。僕は特に中島が求めている様なリアクションは取れないのに中島は時期を見て男性に困ったことがないと教えてくる。

 

それから2年ぐらい経った時、僕は中島から離れることにした。中島はその時見初めたグランドチェロキーを愛車にしている年上の男性と新宿のヒルトンホテルのBARでカクテルを、外資系のホテルのメインBARで初めて飲んだと心躍らせていた。僕は中島に連絡することを止めた。もうその頃、中島の首にはあの時から掛かっていた銀色のネックレスが僕の視界に入ることはなくなった。いつからかはわからないが中島の首には銀色のネックレスが掛かることはなくなっていた。