いつもとはタイプが違っていた。いつもは大抵が僕のほうから頑張って会話を盛り上げる為に会話のキャッチボールが繰り返されるような話題を捻り出して彼女たちにメッセージを送っていた。しかし、長続きはせず現実に会うまでに至ることは少なかった。
マッチングアプリはマッチしたら終わりではない。その後にメッセージを送り、会話して、時には電話機能を使って通話もしたりする。電子機器は便利になりすぎてしまいビデオ通話さえいともたやすく可能になった。不思議な物でビデオ通話や電話での通話は身構えたりするがメッセージの往復に関しては気軽に感じてしまう部分がある。言い訳をするわけでもなく、ミスをつくろう行為に力を入れるわけでもなく間違いを瞬間的に違う方向に変えられるからだろうか。
今、マッチングした女性は板橋と表現できる付近に住んでいるらしい。僕は新宿といえる付近に居を構えていた。板橋と新宿はそんなに遠くないというのは僕の感覚であってそのヒトにとっては定かではない。板橋に行ったことがあるからだろうか僕の中では親近感が早く、強く、湧いていた。
メッセージのやり取りが頻繁でリアルタイムで返信がポンポン返してくれるからか会った事もない、顔も不明な相手に僕は熱を帯びだしていた。
そのヒトは昔…ギャルだったとメッセージに書いてきた。僕はギャルに好意的だから明るい気持ちと表現を文字に託して会話をした。そしたらそのヒトはギャル時代の写真を送信してくれた。当たり前にその写真にはそのヒトがギャルだった時が映っていた。うまく言えないけどそれは高校生ぐらいの時の写真だ。今はとてもじゃないがその写真と近しいことはないだろう。でも僕は写真を見てしまったからそのヒトを認識する術はその写真しかなくてメッセージを何回繰り返してもそのギャルの写真に写るそのヒトの表情しか頭の中にはイメージできなくなった。
自ら会おうなどと言ってくるようなマッチングした女性はいなかった。でも、今メッセージをやり取りしているそのヒトは会おうと書いてくる。僕は素直に会うとメッセージを返した。会うのが目的でマッチングアプリを始めたから。デートをするのが目的でマッチングアプリにログインまでしたから。
当たり障りがない様にデートは飲食店を提案した。東京では適当な駅で待ち合わせしても飲食店がないという確率は低い。そして、時間のコントロールも用意だ。もし気まずくてもなんとか適当に切り上げて帰ることができる。初めて会う人に会う為の場所はどう考えても飲食店しかないと、他に選択肢なんて存在しないと僕の頭の中では決めつけていた。でも、そのヒトが返信してきたメッセージを見ると飲食店は嫌だということと代わりに美術館で会おうと書いてあった。僕は驚いた。美術館で会うなんて考えてもいなかった。運がいいことに僕は美術館が好きだった。だから自分の口が空いてしまっていて少しポカンとした間はできてしまったけど美術館で会おうと気持ちよく返信をしたんだ。直ぐに頭の中ではシュミレーションが始まりあっという間にそのことに気づいたけれど。美術館で展示されたものを鑑賞している間は無口ではないだろうか。よっぽどカジュアルな展示会と場所でなければ言葉を交わすような環境ではないはずだ。
しょうがないのかな。
そのヒトが選んだ美術館も展示内容も簡単に表現すれば高級レストランに行って食事をするようなコトと同一だった。イタリアンでいえばリストランテ。和食で表現するならば料亭か。待ち合わせて美術館に入るまでは会話を楽しめるけど足を鑑賞する場に置き始めてしまったら歩幅を合わせるのが精いっぱいで無言が続く。観ないわけにもいかない鑑賞物を僕は好きなことが合間み合ってしまい観てしまう。
巧くはめられたようにも感じた。
そのヒトはそこまでしてこの美術館に足を運びたかったのだろうか。周りに誘う人がいないからマッチングアプリを使ったのか。わざわざ初めて会う人と絵を鑑賞する。不思議な嗜好だ。そんなことも器用に頭を使いながら展示される絵、中にはとても有名な作品もある美術館を初めて会ったそのヒトと僕はうまく歩く場所をあわせながら館内を進んだ。
そのヒトにみた僕の印象はとても疲れていると感じた。突然見せてくれたギャル時代の表情とはかけ離れた疲労感が全体で感じられた。会話に混じった、隠された様に言っていた今は休憩しているというような表現もあったことを思い出した。
美術館を出ると展示されていた絵についてお互いの感想を共有した。この作品はこうだ。あの絵はこんなふうに思ったと繰り返した。それが今日のメインだったようにそこから自然に解散する流れになった。極自然に。計画されていたかのようにお互いサラッと自分が帰る道に足を進めて行った。次の約束はしていない。
夜、そのヒトからメッセージが来ることはなかった。僕もメッセージを送ってはいない。ただ、メッセージのやり取りをした中で貰ってしまう形になったそのヒトのギャル時代の写真は何度も眺めていた。
僕はそのヒトがこの写真をとても大切なんだと振り返ってしまった。
僕はこの写真がとても大切なんだとそのヒトを振り返ってしまった。