テーブル番号1-7の後ろ側

朝食は食べていたのだが、いつも通りバナナ、ホットコーヒー、生乳100%のヨーグルトを塗ったトースト1枚では腹持ちが悪いことに最近気づいた。お昼の時間帯までに空腹感が強まる日々が増えて来ていた。この日も午前10時過ぎには空腹感に襲われていた。次の予定まで少し間が空いた。時間の余裕が出来てしまったので軽食をとろうと思った。しかし、そこは田舎だ。まだ飲食店が開店する時間ではない。たいていのお店が11時、もしくは11時30ぐらいを目処にしてランチを始める。救世主はファミリーレストランだ。コロナ禍以降24時間営業はやめてしまったが、8時から22時という告知はしている。他、個人経営等の飲食店が11時から20時ぐらいがほとんどであるがゆえ助かる。現地点から約1.6km離れた場所にファミリーレストラン、既に営業を開始している飲食店があった。とにかく、間が空いてしまった、空腹感を埋めておくためにそこへっ向かった。
そのファミリーレストランには初めての訪問だった。駐車所に向かって対向車線から右折し、入り口を入ろうとすると上下スーツ姿のスマホを片手に忙しそうに通話をする男性が目に入った。失礼だがこういった人をファミリーレストランの入り口付近で必死に通話をしている姿をみてしまうとセミナーか、営業か、勧誘か、ネズミか…とかんぐってしまうのが常だ。申し訳ないが。
お店に入ると日曜日の10時頃は客足は薄くほとんどの席は空いていた。私はドリンクバーの横を通り過ぎ店内を一周するかのように歩いた。角にある末席、L字型の曲がり角に設置された席は使用している雰囲気があったのでそのとなり、向かって左側へ座った。
ファミリーレストランもいまではタブレットがテーブルへ置かれており、おしぼり、水がサービスされることはない。店員が説明に来ることもない。タブレットと従来のキャンペーンが印刷されたB1だかA1のカラフルなメニューと右手に、左手に持ち替え注文に迷う。野菜がとりたいような意識の中、定食だなと思った。時間帯的にタブレットのトップ画面に表示されていたのは朝定食のメニューだった。豚汁定食、鮭定食、ボリューム定食、きのことしらすの雑炊。なんだかピンとくる物がなかった。ボリューム定食には小さいサバの切り身(焼きの小)とソーセージ、ベーコンが付いていた。多種多様を食べるという名目でこのメニューに決め、納豆は付けずに味噌汁を豚汁に変更追加した。プラス150円。注文した定食のメニュー名はバランス朝定食820円。合計するとお会計970円だ。注文したときまでは良かったが、品が手元に届き食べてみるとコスパの悪い事、金額の高さを痛感してしまった。申し訳ないがクオリティが低すぎる。致し方ないといえばそれまでだが、残念だ。

定食を注文するとスープバーとドリンクバーが付いてくる。それに誘われたわけではないがせっかくなので頂いてみた。入店し席につくまでに通り過ぎたであろうドリンクバーのサービスカウンターに足を運んだ。左端にスープバーの土鍋が保温されているのがわかった。壁には帯に書かれた今日のスープバー、トマトスープという表示が目に入った。スープが入った土鍋の蓋を開けてみるとコンソメスープらしき物だ。気には留めずカップに注ぎ、右隣のドリンクコーナーへ移る。キャロットジュースと思われる物があったのでそれにした。メニュー表記は野菜ジュース?ベジタブルジュースと表記されていたか、既に記憶が定かではない。それぐらい興味がなかったのか。
席に戻り、スープ、野菜ジュースを試す。スープはコンソメスープの薄味。野菜ジュースはコンクを水で割ったようなテイストだ。おまけ景品に期待してもというところか。そんなことをしている内に左側の通路前方から店先で目にしたスーツ姿の男性が足早に女性2人を連れL字型のコーナー席に入って来た。戻って来たと表現するべきか。失礼だがやはり営業かなにかの類か。日曜の午前中から見る光景ではないように思ってしまった。
スーツの男性が会話を始めると私の背中越しに座るのがスーツの男性。向かいに後から来店した女性2名ということの察しがつく。上座下座でいけば女性2名は客だ。
スーツの男性が口を開き
「朝早くから… お母さま… …!!」
とフレーズが出たことで女性2名は親子であることが判明した。
聞いてはいけないと思いながらも、耳に入ってくるだけ。と私は本を片手に本を読んでいることが間違いないという姿勢をとる。…が、左耳は背中のソファーに押し当て会話を聞こうと必死なってしまっている様。色々な物が簡素化され客数の少ない日曜の朝。ある意味ではその処遇が助かった。家政婦は見たの心境に入ってしまった。
自分の注文したバランス朝定食+豚汁変更がサービスされるまでのあいだ本を読んで間を…と思っていたがそれどころではなくなってしまった。
次に聞こえてきたのは女性2名の内の御一人。口を開いた感じがすると母だという察しがついた。
母:
「…そういうマニュアルとか、研修期間とかは決まっていなかったんでしょうか?時代がわたしの時とは勿論違いますので…」
…。
スーツ男性:
『今回は大変申し訳ありません。…人生初めてのアルバイトでしたのに… …。』
人生初めてのアルバイトということは女性2名の内のもう一人は女子高生であろう。そしてこの、今現在わたしを含めた4名が居るファミリーレストランでアルバイト雇用の対象。そして右側に座るは母。向かいに座るスーツ姿は責任者。会話の流れからしてエリアマネージャー。
母:
「…研修期間など終わっていないのにいきなり接客させられて…されたお客さんも嫌でしょうし、わからないのにやらされ嫌な思いをするのは…違うかと。。。」
エリアマネージャー:
『申し訳ありません。今現在、調査中でして… 。。。』
調査中…よくある明確な返答はできない。状況が不明であり余計なことを発せられないときによく聞く言葉だ。ファミリーレストランのスタッフ、ほぼアルバイトしかいない現場に調査をする予定なのだろうか。店長に詰め寄るのか?
聞き耳を立ててしまったわたしが座るテーブル番号1-7の後ろ側、L字型の席で展開されている謝罪の場。要は人生初めてのアルバイトをファミリーレストランにした女子高生。働いてみたらキッチンスタートで業務開始。しかし現場は人が足らず、ホール接客未経験(お客様対応の研修も未だ)ホールサービスの残業をタイムカードを切った後に…強要された。ヘルプを依頼された女子高生は断れずに従事すること約20分程度らしい。これに現場は味をしめ同様のサービス残業を繰り返し依頼する日々。そしてホール業務は習っていないが現場は理不尽にも接客、注文を取らせるまでさせてしまった。積もり、積もったサービス残業。成れの果てに女子高生は母に訴え、母はファミリーレストランへ苦情を入れ、女子高生はアルバイトを辞めることに至る。店舗へ訴えを入れたわけではなく、女子高生の母は本社へ訴えを起こしたことでエリアマネージャーがお二人へ謝罪の場を設けた。
…といった私の勝手な見解だ。聞き耳を立てて…
…令和になろうがなくならない飲食店の闇。
手が足りないから、ルールを理解できていないからだけではない闇。
飲食店の暗黙はいまだに続く。
売上と現場の人数の闇。
瞬間的に爆発的な繁忙期と成る飲食店。
数字をならすと大したことはないが、
時間帯に変えると増減が異常、激しいのが飲食店。
その狭い世界観の小さな出来事はその場に触れた人間にしか理解はできないだろうが、当事者たちは必至だ。それぞれに理由もある。
ただ、いつも、毎回、断れない人を利用することは罪だと感じる。
言いやすい人にしかそれらを向けないのはいかがなものだろう。
している側。
された側。
やった人。
やられた人。
言った人は忘れがち。
言われた人は一生忘れない。
作用の調和はとれないものか。